折原臨也は、見目麗しい。
それは認めよう。たとえどんなに性格がアレで残念であっても。
あの整った顔とスタイルが彼を彼たらしめているのだから、
神様はもう少し彼の造形に手を抜くべきであったと思う。
そうしたら、もう少し世界は平和であった筈だ。
(…更に歌まで上手いとか、もう嫌がらせの域だ)
放課後、待ち伏せされて連れ込まれたのはとあるカラオケ店。
毎度毎度理解不能な行動をする人ではあるけど、
何も僕と二人っきりでカラオケで過ごそうなんて思わなくてもいいと思う。
頼んだアイスカフェオレを飲みながら、自分は何故ここに居るのか疑問に思う。
一昨日は新しくオープンしたというカフェに連れて行かれた(オムライス、美味しかったな)
その前の日の夜には差し入れ持参で家にきたし(うちに来たってやることないだろうに)
先週の日曜日には買い物に付き合わされた(洋服…っていつも同じようなのしか着てないじゃん)
とりあえず、友達居ないんだろうなぁ、と思っている。
そうじゃなきゃ僕なんかと過ごす意味がわからない。
毎回奢ってまで一緒に遊んでくれる人を求めてるとかなんか可哀相。
顔はいいんだから誘えばいくらでも女の子が引っかかるだろうに。
本当、残念なイケメンてのはこの人の為にあるような言葉だと思う。
曲が終わって、ニコニコしながら臨也さんが言う。
「ね、俺歌上手いでしょ。惚れちゃった?」
「はいはい、カッコよかったですよ。」
(自分で言っちゃうあたりが本当可哀相だな)
「ほんと?じゃあ次帝人君歌ってよ!」
「え、いいですよ僕は。臨也さん歌ってくださいよ」
もうずっとリサイタルしててくれ。
っていうか歌ったら何いわれるのか心配で歌えないよ。
…正直何故自分を誘うのか、アタリをつけてみるならば。
『劣等感を与えてどう反応するのか試す実験』をしているのではないか。
そんな風に思っている。
まぁ僕は地味だという自覚もあるし。
この人の周りには個性的な人しか居ないから、サンプルには適役だと思う。
(我ながら嫌な推察だけど、でも多分そうだと思うし)
でも僕は割りとこの非日常を楽しんでしまってるので
恐らく彼の予想している反応ができないと思っていたりもする。
(だからもう少し楽しんで、嫌になったり飽きたりしたら「一般回答」を出して
相手に飽きてもらうのが一番いいと思うんだよね)
予想外の回答をしてしまうのが一番マズイ。
「えー、ヤダ、帝人君歌ってくれなきゃ今日帰さないよ」
「何ですかそれ」
「それとも何?俺には聞かせたくないの?酷いです太郎さん、甘楽ちゃん悲しい!」
「現実でそのネカマ言葉は使わないほうがいいですよ」
(残念度が跳ね上がります、マジで)
聞かせたくない、のは確かだ。
別に音痴な訳ではない、筈だ。歌の上手い正臣が褒めてくれることもあるから。
「そこまで嫌がるなんて、益々聞きたくなるじゃない。
まぁ俺はいいよ、このまま帝人君と朝まで一緒っていうのもオイシイし」
オイシイって何だ。監察し甲斐があるって事か。流石に嫌だな。
「…1曲だけでいいなら…」
「うん、いいよ。やった、帝人君の歌声とか貴重だね!」
仕方がない。観念する事にした。
検索機でいつも歌ってるアーティストの曲を探す。一番短い曲どれだったかなぁ。
…頼むからじっと見ないで欲しい。
えい、と半ばヤケクソで曲を入れた。
こんなに緊張して歌ったのは初めてかもしれない。
やっぱりカラオケって一緒に行く人が大事なんだなと再認識した。
っていうか正臣と園原さんだから笑わずに聞いてくれるんだと思う。
叶う事ならテンポを早めに操作して歌いたかった曲を歌いきる。
「…………………帰ってもいいですか」
「いや…予想外だよ帝人君!益々君に興味が湧いた!」
(………やはり失敗したか)
僕が選曲したのは、最近人気の聖辺ルリの歌。
残念なことに、変声期がきても高いままの僕の声では
彼女の歌が一番歌いやすい。
というか男性ボーカルの曲が低すぎて歌えないのだ。
(そういえばこの間狩沢さんたちとカラオケをしたときは
渡草さんにえらく褒めてもらったなぁ…)
次は是非振り付けを覚えてくれ、と言われた気がする。
歌の声質が似ているみたいで、複雑ではあるけど
この歌を歌えば、下手だと思われることはない。
ただどうしても恥ずかしい。
(下手でも普通の曲を入れて、歌えばよかったんだ…!)
「すごいよ帝人君、惚れ直した!そうだ、デュエット歌おう!」
「ちょ、1曲だけって約束でしたよ!」
っていうか惚れ直したって何だ。
僕の発言をスルーして、何曲も入れていく臨也さんに
模範解答を間違えた僕は頭を抱える事になった。
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テーマは「行為が全て裏目の折原氏」と、「女性ボーカルの曲が得意な帝人」でした^^
いざみかは色んなパターンの2人が書けて楽しいですね。

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