「なぁんで“魔法少女”はいるのに“魔法少年”はいないんだろうねぇ」
「・・・はぁ」
ある週末の午後8時。いつもの調子で人の部屋に居座っている情報屋が言った。
ご丁寧に持ってきた食材・調味料と「作って♪」と甘えた声といい笑顔を揃えてやってきたので
「どうせならできたものを持ってきて欲しいです」「ダメ、俺出来合いのもの食べられないから」
といういつものくだりをいつものようにして、まぁ結局作って仲良く夕食をとって
まったりしているときにその発言。
「だって不思議じゃない?まさかアニメにも聖少女信仰があるのかな?」
「僕が不思議なのは何故臨也さんがいきなりおもむろに取り出したタブレットで
魔法少女アニメを観だしたのかという所なんですけど」
「えー、だってこんな話帝人くんしか付き合ってくれないし」
画面にはフリフリの衣装を着た女の子が数名、何かと戦っている。
どこかで観たな、これ。…あ、狩沢さんたちとカラオケに行ったときだ。
歌の画面こんなのだった。
「狩沢さんや遊馬崎さんなら喜んで話聞いてくれると思いますけど」
「あいつらは嫌だよ。熱入ると時と場所選ばない発言するから」
「それ貴方にだけは言われたくないと思いますよ」
「あ、酷いなぁ。太郎さんたら冷たいんだから」
片手を口元にあててむくれた顔をして、甘楽口調で文句を言う。
いや、そんな仕草されてもかわいくないです。
「で、本当になんなんです?まさか本気で魔法少女談義したいわけじゃないんでしょう?」
「んー…いや、帝人くんなら相手してくれるからさぁ」
「確かに明日は休みですしヒマ人ですけど…どれだけ友達いないんですか、臨也さん」
いい大人なのに。折角の週末に食料持参で男子高校生の部屋に遊びに来るって。
「あ、今の発言すっごく傷ついた!もう居座る。泊まらせてね」
「どういう結論ですか。―どうせ最初からそのつもりだったくせに」
ぴく、と臨也さんの眉が動く。
「ふぅん、どうしてそう思ったの?」
「来る前に連絡くれたでしょう。直ぐ帰るつもりのときは貴方アポなしで来るじゃないですか」
「そうだっけ?」
「そうですよ。ところでどの茶葉がいいんですか?」
「へ?」
「紅茶ですよ。この前わざと一式置いていったじゃないですか。
あ、僕にウデは求めないで下さいよ。嫌なら自分で淹れて下さい」
「…ダージリンがいいな」
「はいはい」
よいせ、と立ち上がってお湯を沸かす為にケトルに火をかける。
話をするときは大抵紅茶。臨也さんの事務所に遊びに行くとそうだから
置いていったこの紅茶セットもそういう意味だと思ったんだけど、違ったのか。
なんか意外そうな顔をしたもんな。
「ね、さっきの話に戻るけど、もし帝人くんが“魔法少年”になったらどうする?」
「うーん、“魔法少年”の定義によりますかね。大体何かと契約して悪と闘うんですよね」
「うん。そうかな」
「なっちゃったら仕方ないんじゃないかなぁ…。やると思いますよ」
「楽しいと思う?」
「さぁ…でもそれを正義と信じたら頑張れるかもしれないですね。―楽しい、と
思うかもしれません」
「今の君みたいに?」
「!!」
「ブルースクウェアという“魔法”を手に入れて“悪”と闘う少年。
ああ、“魔法少年”は存在したねぇ。君だ」
なるほど…この話題の着地点はここか。
「…そうすると臨也さんは何になるんでしょうねぇ」
「えー、俺かぁ。時に主人公を助ける謎のヒーローとか?」
「うわぁ自分で言っちゃったこの人」
「じゃぁ帝人くんは何だと思う?」
ケトルがお湯が沸いたと合図している。
再び立ち上がって臨也さんに背を向ける。
「そうですね、きっと『その作品の脚本家』とかじゃないですかね」
「…」
「是非いい脚本を書いていただきたいんですけど…
きっと『演者のアドリブ』とか『視聴者の意見』とかで、全部が思い通りにはならないでしょうね
コポコポ…ポットとカップにお湯を注ぐ。
あっためといたほうがいいって言ってたな。うん。
「…やっぱり帝人くんは面白いなぁ!これだから俺は人間を愛さずに入られない!」
「褒められてる気がしませんね」
お湯を捨てて茶葉を入れる。
「帝人くんは中でもすごく興味深いよ。俺の思考を読める奴なんてそういない。
―――ましてやそれを受け入れるなんてね」
「暫くは楽しめそうですか?」
高い位置からお湯を注ぐ。
空気が入ったほうが茶葉がよく回っておいしくなるんだとか。
「願わくば一生楽しみたいね」
保温のための布をかぶせて3分。
ここでようやく振り返って笑ってみせる。
「それって何だかプロポーズみたいですよ。――――頑張りましょう」
相手もにっこり笑って応える。
「よろしく頼むよ」
どこまでどう思ってるのか、わかりはしないけど。
まぁ悪くは思ってないみたい。楽しんではいるみたいだな。
ポットとカップをローテーブルへ運ぶ。
「ところで脚本の折原先生」
「何?」
「この魔法少年の物語は一体どうなるんでしょう?」
「うーん、そうだなぁ…お望みの結果にできるかどうか」
「別にハッピーエンドは望みませんよ。ただ…」
「ただ?」
3分。カップに注いで今まで以上の笑顔で手渡し。
「もし主人公が死ぬのなら。どうか普通には殺さないで下さいね」
お、相手の笑顔が固まった。
「…」
「できたら非日常の手にかかりたいなぁ。先生、ご検討ください」
黙って受け取った紅茶を一口。
「…うんおいしい。…やっぱり君は興味深い。わかってるのかな?それともわかってないのかな?」
「何がでしょう?とりあえず紅茶が美味しくて何よりです」
まだまだ負ける気はありません。
一緒にティータイムと戯言で踊り疲れるまでは。
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長くなってしまった…
かみ合うようでかみ合わない、両片思いを目指しました。

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